腹痛について
腹痛とは腹部全体の痛みで、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸など消化管から来る痛み、膵臓、胆道、肝臓などの消化器から来る痛み、膀胱、卵巣、子宮、前立腺など骨盤内臓器の痛み、腎臓や尿管、膀胱など泌尿器科系の痛み、腹部の筋肉などの痛みと原因は様々です。
そのため、腹痛を訴えて医療機関を受診する方も大変多く、特に怪我以外の救急搬送の理由では、胸痛と腹痛が上位を占めているという報告もあります。
腹痛を起こす身体の不調の原因は非常に多いだけに、はっきりとした原因を解明することも難しく、腹痛を理由に緊急入院した患者様の4割超は、結局原因がはっきりしなかったという報告も上がってきています。このように、シンプルなようでいて実は明解に説明するのが難しいのも腹痛の特徴の一つです。
危険な腹痛の見分け方
腹痛には、緊急を要する危険なものから、様子をみても大丈夫なものまであります。
以下のような症状がある時は、迷わず救急対応で受診してください。
- 動くと響いて歩けないほど痛い
- 胎児のように身体を丸めていないと我慢できない
このような症状は、腹膜という腹部臓器を包んで保護している膜に炎症などの障害が起こっている可能性が高い症状です。腹膜がダメージを受けているケースは、受診後も緊急入院になることが多く、症状や疾患次第では緊急手術も考えられます。我慢して一般の医院に行くのではなく、救急車を呼んで対応してください。
また、上記の症状がなくても、
- コップ1杯程度以上の吐血や下血がある
- 会話もできない、意識が朦朧としている
などの症状が現れている場合は危険な状態ですので救急対応で受診してください。
早めに医師の診断を仰ぐ必要のある腹痛
腹痛とともに以下のような症状が現れた時は、できるだけ早めに当院を受診してください。
- 下痢や嘔吐が止まらない
- コップ1杯分よりは少ないが吐血や下血がある
- 38℃以上の高熱がある
- 爪や白目が黄色くなって黄疸の症状がある
時間的に余裕がある可能性が
高い症状
腹痛があっても、同時に現れる症状が以下のようなものだけだった場合は、しばらく様子をみて、症状が続くようなら受診してください。
- 腹部膨満感
- 体重減少
痛むところに病気が
あるとは限らない!?
たとえば虫垂炎などの場合、最初はみぞおちが痛むことが多く、初期症状では胃炎などとあまり変わりがありません。こうしたケースはそう珍しいことではなく、腹痛の場合、痛みだけで疾患を特定することは非常に難しいと言わざるを得ません。
痛みは、痛みが起こる部分によって分ける考え方、痛みが起こる原因によって分ける考え方があります。 このうち痛む部位による分類は、内臓痛と体性痛があります。多くの消化器は、消化器そのものが痛むことはなく、それを包んでいる腹膜が伸ばされるなど物理的刺激があったり、内臓の外側を構成している平滑筋が痙攣したりすることで痛みを感じます。これを内臓痛と言います。
この型の腹痛は内臓の疾患が起こった時に最初に起こる傾向があります。下痢の際の腹痛のように、痛みが強くなる時と弱くなる時が波のように変化します。疾患が悪化して、腹膜までが炎症によって刺激された場合、痛みは鋭く、局所的になり、波のような周期性はなくなります。これが体性痛です。
一方これらの考え方とは別に、内臓に由来する痛みには関連痛という分類もあります。これは障害の起こった内臓の表面にある神経と根を同じにする別の箇所に痛みが生じることで、通常の痛みのように、炎症などが起こっている場所とは関係のない部分に痛みが生じることが特徴です。
腹痛を起こす病気を並べてみる!
以下に、腹痛を起こす可能性のある疾患を羅列します。到底すべてを挙げきることはできませんので、あくまでも例示としてのごく一部のものと考えてください。これだけでも腹痛の原因の多さがお分かりいただけると思います。
腹痛を起こす「おなか」の病気
内臓の炎症
消化管に由来するもの
- 逆流性食道炎
- 非びらん性胃食道逆流症
- 特発性食道破裂
- 胃腸炎
- 虫垂炎
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃アニサキス症
- 大腸憩室炎
- 潰瘍性大腸炎・クローン病
など
肝臓・胆のう・膵臓に由来するもの
- 肝炎
- 肝膿瘍
- 胆のう炎
- 胆管炎
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
など
自己免疫性の疾患
- 膠原病
- 血管炎症候群
- ループス腸炎
- 好酸球性胃腸症
- ベーチェット病
- 家族性地中海熱
など
腸や胆管の機械的閉塞
消化管
- 大腸がんによる腸閉塞
- 手術後などの癒着による腸閉塞
- S状結腸捻転
- ヘルニア陥頓
- 便秘
など
胆管・膵臓
- 総胆管結石
- 胆管がん
- 膵臓がん
など
血管の障害
血栓などによる詰まり
- 腸管膜動脈塞栓症
- 腎梗塞
- 脾梗塞
など
血管が破れる・割れるなどによるもの
- 腹部大動脈瘤破裂
- 腹部大動脈乖離(かいり)
- 腸管膜動脈乖離
など
血流が足りなくなることによるもの
- 虚血性腸炎
- 非閉塞性腸管虚血(NOMI)
- 絞扼性イレウス(腸閉塞)
など
腹壁の病気
- 皮下や筋肉の血腫
- 膿瘍
- 筋肉の炎症や外傷
など
機能性の病態
- 機能性ディスペプシア
- 過敏性腸症候群
など
各種の進行がん
食道がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆のうがん、肝臓がんなど各種がんが進行したケース など
腹痛を起こす「おなか以外」の
病気
腹部が痛いからといって、消化器に由来する痛みだけとは限りません。腹痛はそれ以外の臓器や神経、骨や筋肉などの障害の他、心因的な理由から起こるものもあります。以下に腹痛の症状がある消化器以外の疾患を挙げておきます。
心臓疾患
- 心筋梗塞
- 虚血性心疾患
- 心筋炎
- 心内膜炎
- 心外膜炎
- うっ血性心不全
など
胸部疾患
- 胸膜炎
- 肺炎
- 肺梗塞
- 肺がん
- 膿胸
- 気胸
など
代謝性疾患
- 副腎不全
- 糖尿病性ケトアシドーシス
- ポルフィリン症
など
脊髄・神経疾患
- 神経根炎
- 腹部てんかん
など
筋肉・皮膚・骨の疾患
- 帯状疱疹
- 椎間板ヘルニア
- 後腹膜血腫
- 化膿性脊髄炎
など
血液の病気
- IgA血管炎(アレルギー性紫斑病)
- 白血病
- マラリア
など
中毒
- 毒キノコによる食中毒
- ヒ素中毒
- 鉛中毒
など
心療内科の病気
- 心身症
など
消化器内科の専門ではない
「おなか」の病気
特に骨盤内には、消化器の他に、泌尿器系や婦人科系の臓器が存在します。
それらに由来する痛みも腹痛として感じることが多くなっています。
婦人科の病気
- 月経痛
- 子宮筋腫
- 子宮外妊娠
- 骨盤内感染症
- 卵巣出血
- 排卵痛
- 卵巣捻転
など
泌尿器科の病気
- 尿閉
- 尿管結石
- 膀胱結石
- 腎盂腎炎
- 膀胱炎
- 水腎症
- 遊走腎
- 精巣捻転
- 前立腺炎
など
医師に上手に腹痛を
説明するには?
腹痛といってもみぞおちから下腹部、脇腹や背中までに痛みが関連しています。また痛む場所が疾患のある患部とは限らない例もあります(関連痛など)。
診察を受ける際も症状としてはなかなか説明しづらいものがありますが、できる限り痛みの特徴を上手に伝えることが、早く原因を特定し症状を治めるためにも大切です。
医師は診療の際、まずは問診でどこが、どのように悪いのかを把握し、推測される疾患に応じて適切な検査を行って確定診断に導こうとします。 患者様が症状をうまく説明できない場合は、医師の側からいくつかの質問をして、その特徴を引きだそうとすることがあります。
それらの質問を以下に列記しておきますので、その中からご自身の症状を説明する手がかりのようなものを感じとって、診療の際にご利用いただければ、医師にとっても大変助かります。
- 症状がいつから起こっているか、病状は悪化してきているか、快方に向かってきているか
- どの部分が痛むか、痛む場所が移動することはないか
- キリキリ、シクシク、キューなどどのような痛みか
- 痛みが強くなったり弱くなったりと周期性があるか、ずっと痛み続けるか
- 空腹時に痛むのか、食後に痛むのか、食事と関係なく痛むのか
- 特定の時間帯に痛みが起こるか
- 痛みに伴う、嘔吐、下痢、血便、発熱などといった症状があるか
- 痛みが便通と関連しているか(排便で和らぐなど)
- これまでに同じような痛みを経験したことがあるか
- 女性の場合、月経の周期と関係あるか
- 女性の場合、妊娠の可能性はあるか
などの質問を、問診の状況や、患者様の状態を観察しながら適宜組み合わせて質問しています。
このような内容を受診の際、ご自身の症状をうまく伝えるために参考にしていただければ幸いです。