ピロリ菌

ピロリ菌とは

ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリ菌という、直径0.5μm、長さが2.5~5μmほどの両端に数本ずつ繊毛を持つ細菌です。その長軸方向に捻れが入った形状からヘリコバクタ-(らせん型のバクテリア)という名前がつきました。胃液は強酸性の塩酸を含んでいるので細菌は棲めないと言われていましたが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出して、胃内の尿酸をアンモニアと二酸化炭素に分解し、強アルカリ性のアンモニアのバリアを作って胃酸を中和することで胃内に棲みつきます。
アンモニアは毒性があるため、ピロリ菌が感染した胃粘膜は傷つけられたり、遺伝子的な変化を起こしたりします。これによって、胃粘膜は慢性的な炎症を起こし、萎縮性胃炎(慢性胃炎)、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの発生要因になります。
ピロリ菌感染が判明した場合、きちんと除菌治療を行うことが推奨されています。胃カメラ検査によって胃十二指腸潰瘍や萎縮性胃炎があり、ピロリ菌感染が判明した場合、除菌治療は健康保険適用で行うことができます。
ピロリ菌は経口感染によって感染します。胃には強い酸(胃酸)があるため、細菌は棲みつけないと考えられていましたが、幼児期の胃酸の力のまだ弱い時期には、ピロリ菌が生きのびやすく、自分の棲みやすい環境を作り出して住み続けていくものと言われています。
子供の頃に感染したピロリ菌は、一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。かつては幼少時に衛生状態の悪い水を口に入れて感染すると考えられていましたが、現在は上下水道が整備され、水からの感染はほとんど考えられません。
そうした条件が整った先進諸国の間でも、日本のピロリ菌感染数で経口感染が多いことから、日本では赤ちゃんの食べ物を親が噛み砕いて与える習慣が残っていることがピロリ菌感染の原因となっていることが考えられます。
家族の中で、ピロリ菌感染が判明した人、胃・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がんなどの罹患者がいる方は積極的に感染診断を受けることをお勧めします。

ピロリ菌の検査方法

ピロリ菌の感染判定は、胃カメラ検査の際に組織のサンプルを採集して行うものと、それ以外の検査に分けることができます。
胃カメラ検査で胃炎、または胃・十二指腸潰瘍、胃がんなど数種類の疾患が認められ、以下に挙げる6つの方法のどれか1つによってピロリ菌感染が陽性となった場合、除菌治療を健康保険適用で受けることができます。

胃カメラを用いた検査法

迅速ウレアーゼ試験 胃カメラ検査で胃の組織を採集し、ピロリ菌が作り出すアンモニアの有無を調べる方法で、試薬がアンモニアに反応すれば陽性となります。
鏡検法 胃カメラ検査で採集した組織を染色して顕微鏡でピロリ菌がいるかどうか調べます。
培養法 胃カメラ検査で採集した組織をすり潰し、培地で培養してピロリ菌がいるかどうか調べます。

胃カメラ検査について

胃カメラを使わずに行う検査法

尿素呼気試験

ピロリ菌がもつウレアーゼという酵素により、胃の中の尿素は二酸化炭素とアンモニアに分解されます。
アンモニアと同時に生じた二酸化炭素は速やかに吸収され、血中から肺に移行し、呼気中に炭酸ガスとして排泄されます。
この原理を利用して、自然界には稀にしか存在しない同位体に置き換えた検査薬(13C-尿素)(※人体には影響を与えない薬です)を患者様に服用して頂き、小さなバッグを膨らませていただきます。そのバッグの中の呼気に含まれる13CO2を測定します。ピロリ菌に感染している場合は、尿素が分解されるため呼気に13CO2が多く検出されることになります。一方ピロリ菌に感染していない場合では、尿素が分解されないため13CO2の呼気排泄はほとんど起こりません。
この検査は、生きているピロリ菌の確認ができるため、除菌判定によく使用されます。

抗体測定 血液検査または尿検査を行い、サンプル中にピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。ただし、過去に感染していて現在除菌が済んでいても陽性になります。
便中抗原測定 検便検査を行い、便の中にピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。尿素呼気検査と並んで除菌判定に使用されます。

ピロリ菌が引き起こす病気

など

ピロリ菌が作り出すアンモニアのバリアは、胃の粘膜に刺激を与え続け、慢性的に炎症や遺伝子の変化などを起こします。炎症により胃粘膜の萎縮が進行していくと胃液に対する防御力が低下して傷つきくなり、胃・十二指腸潰瘍を起こします。遺伝子的変化は胃がんや胃MALTリンパ腫の原因となります。これらのリスクや症状は除菌によって低下し改善していくことが知られています。そのため、積極的にピロリ菌除菌治療を受けることをお勧めしています。

ピロリ菌と胃がん

我が国の調査では、胃がんの原因の90%以上がピロリ菌感染によるものという報告があります。また世界的にも、WHO(世界保健機構)は胃がんの80%以上がピロリ菌に関連していることを報告しています。
ピロリ菌の除菌治療が成功すれば、胃炎自体は軽快していきますが、ピロリ菌感染を長く放置すれば、それによって起こった萎縮性胃炎による胃粘膜の萎縮や腸上皮化生(ちょうじょうひかせい=萎縮性胃炎によって、胃粘膜の構造が腸粘膜の構造のように変わってしまうこと)が治るわけではありません。
一度萎縮し、変化してしまった胃粘膜は、ピロリ菌除菌後も何年にもわたり長期間残りますから、その部分からの胃がん発症リスクは引き続き高いものがあります。
そのため、胃カメラ検査によって萎縮性胃炎が認められた患者様は、ピロリ菌除菌後も胃粘膜の萎縮が長期間残りますから、通常より頻繁に定期的な胃カメラ検査を受け、胃粘膜の状態を見守っていくことが大切です。1年に1回は胃カメラ検査を受けることが推奨されています。バリウム検査では、胃の微細な粘膜の変化を見つけることは難しいので、バリウム検査ではなく、ぜひ胃カメラを受けてください。もし胃がんが発見されたとしても、早期のうちであれば、内視鏡だけの侵襲の少ない処置で完治させることも可能です。

ピロリ菌の治療

ピロリ菌の除菌は、除菌キットと言われる2種類の抗生剤と1種類の胃酸分泌抑制薬がセットになったものを1日2回、7日間に渡って服用するだけです。服用完了後4週間以上間を開けて除菌判定を行います。
この際には胃カメラによる検査は不要で、尿素呼気法または便中抗原測定によることがほとんどです。近年になって胃酸の分泌抑制薬にタケキャブという新しい薬が使われるようになり、除菌成功率が向上したことで1回目の除菌治療による除菌成功率は90%になっています。
残り10%の除菌失敗の原因は、ほとんどが抗生剤の耐性菌によるものです。そのため2回目に行う除菌治療では2種類の抗生剤のうち1種類変更したもので、同じように1日2回、7日間服用し、4週間以上あけて除菌判定を行います。
2回目までの除菌成功率は99%になります。もしこれでも除菌に失敗した場合は3回目の除菌治療を行いますが、3回目の治療からは健康保険適用外となり、自由診療となります。
当院の担当する医師は、日本ヘリコバクター学会が認定するH.pylori感染症認定医の資格を持ち、除菌治療においても豊富な臨床経験があるため、お気軽にご相談ください。

除菌治療の際の副作用について

よくある副作用としては、下痢や軟便が起こる可能性が10~30%の確率であります。続いて2~5%の確率で悪心(吐き気)、味覚障害があります。さらに続いて皮膚の発疹が1~2%の確率で報告されています。 皮膚の発疹を除いた他の副作用は服薬中に起こるものがほとんどで、除菌治療が終わったら自然に解消していきます。治療完了後も不快な症状が続くようなら、いつでもご相談ください。
ピロリ菌除菌に成功した場合、10人に1人程度の方が、逆流性食道炎の症状である胸やけや胃もたれなどを起こすことがあります。これは、胃の粘膜の炎症が改善し、低下していた胃液の働きが正常に戻ってくるための一時的な現象で、ほとんどの場合に治療は不要です。なお、1度除菌に成功すると、再感染するケースは100人に1人以下となっています。

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